箱根越え

 今日は箱根越えだ。今日を乗り越えればもう、大したことはない。でも、日本一の山越えだけあって、そう簡単にはいかないだろう。

 朝、彼と別れ、メシ屋を探して上に行っていると、いつのまにか峠に入ってしまい、下るには悔しいので、朝から何も食わずで登り続けた。体中から汗がだらだら流れ出て、僕はこのまま乾燥してひからびてしまうのでは、と思った。4kmくらい登ると小さな温泉街があり、その駅で速攻「はちみつレモン」と「ビタミンウォーター」を飲んだ。体の干からびている部分がよみがえっていく感じがした。

 そこで少し休んでいると、本格的なチャリンコ乗りがやってきて、少し話をした。僕の自転車を見て、「ジャイアントか」と言っていて、「通やなぁー」と思っていたら、その人はトライアスロンの選手だそうで、輪行の仕方とか、後輪のはずし方とかを教えてもらった。その人のチャリンコは、タイヤが細く、つるつるで「怖くないですか?」と聞くと、怖いときもあるけど、そん時は怒鳴りつけるそうだ。僕はその言葉に少し勇気をもらった。途中まで一緒に行って、僕はローソンがあったので、そこでメシを食べて行くことにしたので、そこで別れた。

 それから先も進めば進むほど、汗が止まらず、水をかぶりかぶり、めちゃめちゃ苦しかった。でもなんとか、国道1号線の一番高いところまで行った。詳しくは覚えていないが、800メートル位だった。そこは、まだ箱根峠ではなく、ということは、箱根峠はこれより低いところにあるからもう楽勝だと思った。

 途中に、石仏、石塔がたくさんあるところに寄った。ずっと前に作られ、戦国時代に忘れ去られ、風化し、崖崩れなどでめちゃくちゃになっていたのを、修復したらしい。その石仏を見に行ったら、親子連れがいて、その父親が子供に、「これはオレが修理したんやで」と言っていてたのを聞いてびっくりした。

 後はもうほとんど下りのようだ。しばらく進むとすぐに芦ノ湖があり、たくさんの人がいた。豪華な遊覧船などがあり、バス釣りの人や、観光している人でにぎわっていた。湖の柵から身を乗り出し、水中の魚を探していると、向こうの方から、どっかで見たことがあるような人がやってきた。その人達は団体らしく、もう少しよく見てみると、もう一人見たことがある人がいた。テレビに出ている人だ。ボキャブラによく出ている人だ。たしか、take2だったっけ。あの田中美佐子と結婚した人がいた。かなりドキドキした。写真を撮りたかったけど、緊張して知らんぷりしてしまった。

 それからすぐにうどん屋に行って、山菜うどん(700円、結構うまかった)を食って、外で座っていると、目の前にTBSのワゴン車が来て、そのtake2がそこに乗り込んだ。目の前で、2メートルも離れていないワゴン車の中がよく見えた。ナイナイとかで見るワゴン車が、目の前で見れた。20分ぐらい目の前にいて、僕はドキドキしつつ、スタッフやtake2らは、買い物などしていた。

そうこうして、その人らはどっかに行ってしまい、僕も芦ノ湖を発った。

 そしたらまた登り坂で、2kmほど行くと、道の駅、箱根峠があった。少し道の駅で休んで、500メートルぐらい平坦な道を行くと、箱根峠8kmという看板があり、そこに行くと、ふっと道が消えるように下り坂になっていた。やった。とうとうやった。とてもうれしかった。今までの苦労がふっとんだ。下り坂は車よりも速く滑り下り、びしょびしょだった服も乾き、風も、涼しい風からなま暖かい風になってきて、とうとうここまで来たんや、天下の箱根峠を越えたんや、という感動で鳥肌が立ち、涙が出そうになった。そして、今日でもうほとんど、この旅も終わりだ。

 今、僕は静岡駅にいる。ここはとても野宿している人が多い。ざっと見ても10人ぐらいはいる。おじちゃん、おばちゃん軍団は、屋根付き囲い付きの一番寝れそうな銀行の前に陣取り大勢で寝ている。僕は明日、ここにチャリンコを置いて、電車で帰る。長かった旅も、今日が最後の夜だ。一応、また静岡に戻ってくる予定だが、今日で一区切りだ。思えば辛く、しんどく、さびしかったが、同じような人や地元の人、京都の友達などにお世話になり、ここまでやって来れた。本当にありがとうと言いたい。ありがとう。

 昨日、温泉に入ったので、今日はいいやと思っていたが、箱根越えで、とてもやるせない臭いなので、静岡の繁華街のはずれにある銭湯に入った。やっぱ、毎日風呂に入らなあかんなぁ、と思った。すべての疲れは湯で流れていった、って感じだ。

 あぁ、だんだん眠たくなってきた。